双極Planetary

詩とか小説とか。

Luger part8

でも彼女は言った。

「…愛? くだらないことを言うのね」
「低俗な言葉よ…」


メイリィはそう言いながらも…
私が、お母様と二人きりでこの血生臭い地下施設に残る事を否定はしなかった。
そしてメイリィは、私にあるものを見せてくれた。
それは、あの赤い微生物… ワクチン・ルガーだった。

 

「…これをあなたに渡しておきたかったの」
「このワクチンはある人の遺伝子を利用して開発されたの」
「ワクチンの名前はその人からとったのよ」
「…わかるかしら?」
「これはあなたのお母様なのよ」


新しく出来たワクチン・ルガーは…
エマ・ルガー… お母様の遺伝子から開発された。
私はその事を瞬時に理解した。
ザワザワと蠢くその赤い粒は…初めて見た時からどこかお母様に似ていたから。


皆が地下から去り…
私とお母様は二人きり、この地下施設に残された。
暴力でしか愛情を表現することが出来ないルガーお母様…

きっと、私が別のどこかへ行ってしまうくらいだったら。
私の事を殺してしまうほうが正しいと、お母様はきっと、思ってる。
傷を、痛みを刻むことで私に忘れさせないようにしてる。

それが…きっとそれが、お母様の精一杯の愛情表現…


そう信じてる

 

この心地良い場所にお母様と二人になってから…どれくらい時間が経ったろう。
今、私は…先端の折れた鍵を握っている。
…ずっと前にお母様と同じ部隊の傭兵に鍵のことを聞いた覚えがある。

この鍵は…
まだこの場所に来る前に…お母様が拷問していた囚人を監禁するための鍵だったらしい。
それは返り血を浴びて次第に赤く染まっていき…
囚人が息絶えると同時に折れてしまったのだという。
人間が死ぬ瞬間を目にしたのはそれが最初だった。
お母様はそれから… 折れてしまったその鍵をずっと持ち続けていた。
…息絶えた囚人は今も、その二度と開かない牢獄の中で鎖に繋がれたままなのだろうか。
血まみれのその鍵は…今、私の手の中にある。


…お母様は帰ってこない。


どこへ行ってしまったの?
ずっと、そばに、居てくれるって約束したのに。
ああ、お母様…

忘れたくない
私を見つけてくれたあの日から
お母様が、私を愛し続けてくれていたこと

忘れたくない

…ここには、お母様がたくさんいる。
赤く染まって…モゾモゾと蠢くそれにお母様の面影はない。
でも、この赤い粒は…
紛れもなくルガーお母様だ。
私はメイリィにもらった、ザワザワと蠢くこの赤い粒を…
ワクチン・ルガーを… 自分の身体に投与した。

これは私にとって最愛の母
―――「エマ・ルガー」

お母様なんだ…
私はきっと、忘れない


さあ、そろそろ眠りましょう…
血生臭い地中の黒淵。
最愛の母の懐とも呼べるであろう、この場所で…


~Fin~