双極Planetary

詩とか小説とか。

Luger part7

それは早朝から始まった。
逃げ惑う人々…それを追い、捕え、殺す部隊。
無機質な地下の牢獄施設は混乱に支配される。
地中深いグレーの通路に真っ赤な死体が転がっていく。
もちろん、私も殺される…


でも、それでいい…
お母様の中で死ねるなら


私は暗い牢獄の中で鎖に繋がれたまま、ただ、殺されるのを待っていた。
その時、格子の扉が勢いよく開け放たれて、誰かが飛び込んできた。
薄っすら目を開くと、その誰かはシャンティだった。

シャンティは鍵を手にして、私の腕に繋がった鎖の錠を解こうとしていた。

 

「君は逃げるんだ」
「逃げるんだ、助かるんだ。この鎖を解いて一緒に…」

 

彼は監視の目を掻い潜り、私が監禁されている牢獄へ、私を助けに来てくれたんだ。


やめて 鎖を解かないで
私はここで…お母様の中で死ぬ事に決めた


私はシャンティを拒否した。
これから私も、シャンティも、全員が殺されてしまう。その事は私も理解していた。
でも私は、ルガーお母様と離れる事よりも…
この場所で死を受け入れる事を選んでいた。
シャンティは私に拒否されながらも、何度も鎖の錠を解こうとした。

その時、甲高い足音が響いた。

…ルガーお母様。


私が呟くと、シャンティは即座に振り向き…
どこで手に入れたのか、拳銃を構えてお母様と対峙した。

ルガーお母様は、シャンティを見据えていた。
それはあの時と同じ…人を殺そうとしている目だった。
シャンティは銃口をお母様に向けたまま、ただ身体を震わせていた。

 

「殺されてたまるか… 殺されてたまるか…!」
「彼女は僕が、連れて行くんだ…!」

 

シャンティは銃を撃てないまま、恐怖に震えて涙を流していた。

お母様はシャンティのところへ、ゆったりとした足取りで進んだ。
そして動けないシャンティを…

優しく自分の胸へと抱き寄せた。

お母様はシャンティの手から銃を優しく手に取って…
その銃口を彼の頭に当てていた。
そして、あの子守唄を… 幼いころよく聴かせてくれた、子守唄を口ずさみはじめた。
私はその姿に見惚れていた。
シャンティもうっとりとして動こうとしなかった。
お母様は、微笑んで…


引き金を引いた。

 


そうだ…お母様は微笑んでいた。
記憶にないと思っていたお母様の笑顔。
でもお母様は、子守唄を口ずさむ時は微笑みを浮かべてくれた。

お母様は動かなくなったシャンティの身体を支えて、子守唄を歌い続けていた。
砕けた頭と血が飛び散る牢獄の中で…

子守唄を口ずさんでいた。


なんて心地良い…

私は穏やかな気持ちに包まれて、その様子をジッと眺めていた。

エマ・ルガーという存在は…
もう私の内側いっぱいに満たされていた。
私も後はただ、死ぬだけ。
でもお母様は…


私が死ぬ事を許さなかった


「エマ・ルガーが裏切った!!」
「仲間が殺られた… あの女 他国の娘を守っている」
「悪魔の女め…本性を表したな」


ルガーお母様は私の前に立ち、仲間の傭兵たちを次々と殺した。
私が少しでも離れると、強く手を引いて私の身体を隠すように背に当てて…
そばを離れるな、と言った。
殺した仲間たちの死骸を踏み分けながら… 私の前を歩いていく。


お母様の背中…


「悪魔の女を殺せ!殺せ!」
「まずは娘から殺るんだ!」


お母様はとても強くて、立ちはだかる仲間の傭兵たちを無為に、次々に殺していく。
ああ、お母様が、私の事を守ってくれている。
私に生きろと言っている。


お前は殺させない
私が生きている限り
お前も生き続けろ


裏切り者となったお母様は私を連れて地下施設を深く潜り、その身を潜ませる事にした。
だけど傭兵部隊による捜索が行われればこの軍事施設に身を隠すのは難しい事だった。
でもメイリィがかくまってくれたおかげで…
私たちはどうにか難を逃れる事ができた。

メイリィはどこか懐かしんでいるような…
そんな表情で私たちに語りかけてきた。

「彼らがここを出るまで私のところで匿ってあげる」
「ウイルスが蔓延しているここには長居出来ないはずよ」
「お礼、ね…」

メイリィは、ワクチン・ルガーの試作品が今になって完成した、と話した。
私たちを助けてくれたのはそのお礼、だと…
この時はどうして私たちに「お礼」をするのか理解できなかった。

…メイリィのいうとおり。ほどなくして傭兵部隊は自国への移動を開始した。
続いて、残っていた医師団も移動を開始する。
この地下施設には私とルガーお母様だけが残される事になる。

メイリィが地下施設を去る時、私は彼女に聞いてみた。
私は今まで、ずっと… ルガーお母様に愛されていたか、を…