双極Planetary

詩とか小説とか。

Luger part4

エピカリは急速に広がり、死者は一気に急増しはじめる。
それから白衣を着こんだ人間たちが頻繁に教会を出入りするようになった。
それはメイリィという黒髪の女性がリーダーを務める医師団だった。
彼女は連れてきた医師たちに的確に指示をだして感染者たちを治療していった。
その反面、既に死亡している者は躊躇なく焼却処理を行っていた。
メイリィが到着してから、エピカリは驚くほど沈静化する。

それにはあるワクチンが大きく関係していると聞いた。

メイリィは医療行為と薬品研究の拠点として教会で寝泊りするようになる。
焼却される死体に祈りを捧げ続ける私に…メイリィは言った。

「…もう大丈夫よ」
「紫色のウイルスに一つだけ有効なワクチンがあるの」
「私はメイリィ」
「…医師よ」


メイリィはどこか、私に興味を抱いているようだった。
とくに話し掛けてきたリするわけではなかったけれど…
顔を合わせるたびに視線を感じたのをよく覚えてる。

それから数日が過ぎて…
いつものようにルガーお母様が聖堂を訪れたある日…
その日、お母様は地上で夜を過ごし、翌朝に地下施設へ戻る予定だった。
お母様は地上にいる間、私のそばを離れる事はない。
でもその晩…私がふと、眼を覚ますとお母様の姿はなかった。
私は急に不安になって…
お母様を探して堂内の廊下を彷徨い歩いた。


お母様…お母様…
どこ…?

その時、ザワザワと… 何かが蠢くような音がどこからか聞こえてきた。
何故か私は惹かれるように… その音が聞こえるほうへフラフラと歩いていた。
そこは教会の倉庫だった。
その扉を開いた時、私は思わず小さな悲鳴をあげた。


微生物のような赤い粒が倉庫の壁一面を這い回っていた。

すごく怖かったのに…
その赤い微生物に魅入ってしまったように、私の脚は動かなかった。

なに…この、部屋…?
赤い粒が…動いてる…

逃げ出したいのに動けない。金縛りにあったみたいに、身体がいう事をきかない。

「…こんな時間にどうしたの?」

突然聞こえたその声が、私の金縛りを解いた。
くるりと後ろを振り向くと…
メイリィが、私の事をジッと見ていた。

「また瓶の中から這い出てしまったみたいね」
「…驚いた?でもよくあることなのよ」
「…ああ この赤い微生物のことよ」
「この子たちはね…」

「ルガーっていうのよ」

「それよりどうしたの?こんな時間に…」
「眠れないのかしら…?」


私は咄嗟にその場から逃げ出していた。
どうしてか分からない。
ただ、何かいけないものを見てしまった気がして…慌てて走り去ってしまった。
それからは「ルガー」を見る事はなく…
エピカリによる感染も完全とは言えないけれども落ち着きを取り戻したまま…
時間は刻々と過ぎていき…
私は16歳まで成長していた。
それでもルガーお母様の私に対する態度は変わらなかった。
淡々と会いに来ては私をそばに置いたまま離れない。
無口で冷淡としていて、血の臭いを漂わせている…
私が他人と関わる事も禁止されたまま。


そんな日々が続いていたある時、シャンティは緊張した面持ちで私に想いを伝えた。

「僕は君を愛している」
「ずっと昔から…」
「君のことを愛していた」

それは「愛」の告白だった。
シャンティは唇を塗らして、懸命に、懸命に伝えてくれた。
でも私はその言葉にどう応えていいのか分からない。
私もシャンティに惹かれている。ずっと、ずっと、一緒にいたい。
…そう思っている。
それが「愛」なんだろうか…?

笑顔を見せないお母様は、私の事を愛している…?
私はただうろたえていた。
そして私の中にはルガーお母様の言いつけが宿ったまま、離れはしなかった。

…他者と関わる事を禁止する


「君は僕のこと。どう感じてる…」
「君には僕が、どう映っている…」

何も応えなかった私を、シャンティはそれからも…
幾度となく外の世界へと誘った。
お母様から言いつけられた「外出禁止」の教えと…
見た事がない世界への恐れ。
だけど私は、外の世界への興味は常に抱いていた。
それは次第に膨らんでいって…


よく晴れたある日。
懲りずに何度も手を差し伸べるシャンティに心は揺り動かされ、私はその手にふらりと歩み寄った。
その瞬間、私の視界の隅に…

 

ルガーお母様の姿が見えた。