双極Planetary

詩とか小説とか。

Luger part1

「泣きやめ、赤ん坊」

「赤ん坊…これからお前は」

「赤ん坊… 私の娘だ」

 

力強く脚を握られ、瓦礫の山から引っ張り出されたその瞬間を、私はよく覚えてる。

唐突に視界が光に覆われて とっても眩しくて…

眼が慣れた時、そこには赤い血を浴びた色白の女性の顔があった。

今もよく覚えてる…血の臭い、母の顔…

 

―私はこの時、生まれた。

 

 

ある戦時中の国で生を授かり、その戦いで両親を亡くした私はまだ一歳だった。

まだまともに言葉を発する事も出来ない小さな赤子…

親を失えば一人では何もできない、ひたすら無力な赤子…

荒れ果てた小さな村の瓦礫にひとり残された幼い私は、死が訪れるのを待つだけだった。

そんな私の脚をつかんで、瓦礫の中から引きずりだしたのは 細く、色の白い女性の腕だった。

私の顔をのぞきこんだ銀色の髪をしたその女性が、

敵国の傭兵部隊に所属する拷問史の女…母、エマ・ルガーだった。

 

私が住む村は敵国の制圧地区にあり、その小さな村は ルガーお母様が所属する傭兵部隊の管轄にあった。

母はずっと小さな頃から傭兵部隊の拷問史として育った。

親も、兄妹も、親友もいない。

ただ毎日、人間の身体と精神を痛めつける行為だけを繰り返す。

それがルガーお母様に唯一与えられた生活だった。

だけどその生活しか知らないお母様は、そんな毎日を苦しいと感じることはなかった。

それどころか幼いながらに人間を痛めつける、という行為にどこか喜びを感じていた。

幼くか細いその姿とは裏腹に、冷酷に拷問をこなす事から悪魔の女と呼ばれていたらしい。

その「悪魔の女」が赤子を拾ってきたという噂は傭兵部隊の人たちを驚かせた。

 

「あの鬼畜な女が赤子を...」

「いよいよ本格的に狂っちまったんじゃないのか?」

「いや、どんな女にも母性はあるだろうしな…」

 

それからルガーお母様は、赤ん坊の私を村はずれの教会に自分の娘として預け入れた。

ハイネという無口な司祭様が治める教会で、広い広い野原の真ん中にあるのが印象的だった。

私を腕に抱いて教会を訪れたお母様を、司祭様はどこか哀しむような表情でじっと見据えていた。

 

「さあ…その娘に名前をお与え下さい」

「そして祈りを捧げてください」

「神のご加護があらんことを…」

…お母様の腕の中が、とても暖かかったのを覚えている。

 

 

その教会には地下施設があった。

それは司祭様が物心つくより前、遥か古い時代に設けられた牢獄施設だという。